夕顔との出会い
源氏が新たな恋人、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)のもとへ通っていた夏のころの話。
源氏の従者藤原惟光(ふじわらのこれみつ)の母大弐乳母(だいにのめのと)は源氏の乳母だった。乳母が病に伏していたため、源氏は五条まで見舞いに出かける。
侘びしい佇まいの隣家に咲く花の名を尋ねたことをきっかけに、その家の女性夕顔(ゆうがお)が和歌を寄越してきた。興味を持った源氏は返歌をする。
そのころ空蝉の夫である伊予の介が任国から一旦戻って来たが、次は空蝉を任国へ連れて行くと聞かされる。源氏はもう一度逢いたいと小君に相談するが、やはり実現しない。ふたりは手紙だけのやりとりが続いていた。
六条御息所の苦悶
秋になった。六条御息所のもとへ心を砕いて熱心に通っていたのは過去の話で、いまや源氏の足は次第に遠のいていた。源氏の来訪のない夜は、亡き前の春宮(さきのとうぐう)の妃という重い身分の貴婦人が若い貴公子に弄ばれるという醜聞が広まったらどうやって生きて行けばいいのかと悩む六条御息所。悶々と苦しむ日々が続く。
一方源氏は惟光を使って夕顔と近づくことに成功する。互いに身分を明かすこともなく二人は五条で逢瀬を重ねていた。夕顔はおっとりとしつつも無垢な雰囲気を備え、高貴な風格こそないがどことなく品がある不思議な女性だった。
ある明け方、源氏は夕顔をそっと外へ連れ出す。夕顔の家の者には誰も知らせず、右近(うこん)という夕顔の侍女のみを伴ったお忍びの外出だった。
夕顔の死
無人の屋敷に到着した源氏と夕顔は一日を寄り添って過ごした。夜になり、そのまま寝入った源氏だったが、訪ねてこない源氏への恨み事を美女がつぶやく夢を見て、はっと目を覚ます。
いつしか灯してあったはずの明かりも消え、周囲は闇になっていた。傍で寝ていた右近も異変を察知して怯えている。夕顔を右近に託して人を呼びに行って戻ってきてみれば、夕顔は息をしていない。そこへさきほどの夢に出てきた美女が再度幻となって現れ、そして一瞬で消えてしまった。
夜が明けた。惟光と今後について相談した結果、源氏の醜聞が噂になることを考えて、公にせず内密に済ませることにする。夕顔の亡骸は惟光の父の乳母の家へ移され、源氏は憔悴の体で二条院に戻った。
それでもやはり最後に夕顔を見ておきたいと、日が暮れてから惟光とともに馬で向かい、亡骸と対面する源氏。行き場を失った右近は二条院で源氏のもとで仕えることとなった。
夕顔の過去
心痛で源氏は伏せってしまい、20日ほどでようやく回復した。源氏は右近を召し寄せて語り、ようやく夕顔の素性と過去を知る。雨夜の品定めの折に頭の中将が語った女性こそ夕顔だったのである。夕顔を失った今となっては、せめて夕顔の遺児だけでも引き取りたいと源氏は考えた。
夕顔がいた五条の家では夕顔どころか右近までも帰って来ないので心配するがどうしようもない。右近もまた家に戻ってあれこれ詮索されるのを恐れ、近づくこともできなかった。
そうこうするうち空蝉が伊予の介とともに任国へ下る日が迫る。空蝉は未練が残る心の内を和歌に託して源氏へ送り、源氏もまた歌を返すやりとりをしたが、実際に会うことはない。空蝉の継娘の軒端荻も、蔵人少将(くろうどのしょうしょう)を婿に迎えた。