カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

薫と匂宮、宇治の姫君の恋模様
宇治十帖編スタート!

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橋姫

  •  はしひめ  宇治十帖
  •  薫:20~22歳、匂宮:21~23歳、
    大君:22~24歳、中の君:20~22歳、
    冷泉院:49~51歳

 忘れ去られた宇治八の宮

  そのころ、高貴な出自でありながら世間から忘れ去られた宮家があった。八の宮と呼ばれ、源氏の弟にあたる。
  今は亡き弘徽殿大后が権勢を奮っていたときには冷泉院の次の春宮候補ですらあったが、結局時代が源氏に味方したためその話は消え失せてしまい、本人には何の咎もないのにも関わらず世間から疎まれる存在になってしまっていた。

  八の宮には大君(おおいぎみ・紅梅の帖で登場した紅梅の長女や、竹河の帖で登場した玉蔓の長女とは別人)中の君(なかのきみ・紅梅の帖で登場した紅梅の次女や、竹河の帖で登場した玉蔓の次女とは別人)という二人の娘がいた。
  は中の君出産後に亡くなり、世間からも見放され、八の宮はもはやこの世に未練はない出家したいと思い始める。とはいえ、幼い娘を捨ておくわけにもいかない。家来も次々に去って行き暮らし向きもままならぬ中で、八の宮は娘を育て、来たるべき出家のために時間の許す限り仏道の勤行にいそしんだ。

  しかし都の邸宅が火事で焼け落ちてしまう。頼るあてもない八の宮はやむを得ず、宇治(うじ・京都府宇治市)にあった小さな山荘に移り住んだ。ただでさえ来客もない家であったが、田舎の山里に引っ越したせいでますます世の中から忘れられた存在になってしまった。

火事

  宇治にはまた一人の阿闍梨(あざり、あじゃり・僧侶)が住んでおり、八の宮のもとをよく訪ねて経典の講義をしていた。
  阿闍梨は冷泉院にも経文を進講していたので、折に触れ宇治の様子を院に報告した。出家に至らずとも俗世間のしがらみを断って高尚に暮らす俗聖(ぞくひじり)ぶりを、冷泉院のそばで控える薫は耳にして、尊敬と羨望の念を抱く。世の中は味気なく、とはいえ出家もできず、多忙ゆえに仏道勤行もおろそかになりがちな薫にとって、俗聖こそ理想の姿だったのだ。
  その生き方を具現化している八の宮にぜひ会いたいものだと、薫は阿闍梨に仲介を頼んだ。幾度か手紙のやり取りを交わしたのち、薫は宇治まで出掛けた。いざ対面してみると八の宮は想像以上に素晴らしい俗聖で、薫は彼に傾倒して宇治通いを重ねるようになるのだが――

 薫、大君と中の君の演奏を聴く

  薫の宇治詣でが始まって3年が過ぎた。
  その秋、久々に時間ができたので、薫はわずかなお供だけを連れて宇治へ向かう。山荘のそばまで来ると琵琶の音が聞こえた。薫が山荘にいるときには恥ずかしがって全く演奏などしない大君と中の君だが、誰もいない時にはこうやって奏でては愉しんでいるらしい。
  音を立てぬようそっと近付いて、物陰から演奏を聴く薫。こんな田舎に埋もれさせておくにはもったいない風情の娘たちだと感じる。

  しかし「来客です」と告げる声があったので、大君と中の君は演奏を止めてしまった。薫は残念に思いながらも姫君の部屋の前へ出るが、物慣れた女房もいないせいで満足なもてなしも応対も受けられない。あいにく八の宮は留守をしていたのである。

琵琶

  そこへ弁の君(べんのきみ)という老いた女房が姿を現して女房たちの不手際を叱り、薫の相手を勤めた。
  ところが弁の君は感極まり涙を流すではないか。不思議に思った薫が尋ねると、彼女はもともと亡き柏木の乳母の娘だと言う。さらに彼女は柏木の臨終の折に聞いた遺言を、いつの日か薫に話さねばならぬと思っていたと言うのだ。

  薫はぜひ聞きたいと思うが、弁の君は「また日を改めて」と口をつぐんだ。

 薫、出生の秘密を知る

  都に戻った薫だが、弁の君の話が気になって仕方がない。また優雅な姫君にも心惹かれていた。
  と同時に、妙ないたずら心が湧いて出て来た。まさかと思うような田舎でとびきりの美人に出逢えたらなあ…と普段からそんな空想話を語っていた匂宮に、宇治の姫君たちの話を尾ひれを付けて大袈裟に教えてみようと思いついたのだ。
  案の定、匂宮は飛び付いた。カタブツの薫がそこまで良いと褒める娘なのだからよほどの器量に違いない。そう思った匂宮は薫にもっと詳しく様子を探るよう求める。

もみじ

  10月。宇治に向かった薫を八の宮が迎えた。夜通し経典の話をした薫は、ふとした話のきっかけで先日楽器の音色を聴いたことを告げ、再度の演奏を依頼する。八の宮は娘たちに促すものの、恥ずかしがるばかりで手に取ろうともしないため、薫は残念がる。
  世慣れぬ娘たちの振舞いに八の宮は行く末を案じるが、薫は縁組云々ではなくとも身内同然に精一杯世話をするつもりだと述べ、八の宮を安心させる。

  明け方、薫は弁の君と対面。弁の君は薫に柏木の死までの顛末を語った。この秘密を知る者は弁の君と小侍従のみで、小侍従もだいぶ前に胸を患って亡くなっている。
  弁の君は薫に布袋に入った反古を渡した。それは病に倒れて命いくばくもない柏木が、女三宮に充てた手紙だった。これ以上ない証拠を目の当たりにした薫は心沈み、御所に参内する気にもならない。女三宮にこのことを明かすわけにもいかず、ただ一人で物思いに耽るしかなかったのだ。

系図
命あらばそれとも見まし人知れず 岩根にとめし松の生ひ末

画像引用:東京芸術大学小泉文夫記念資料室
(http://www.geidai.ac.jp/labs/koizumi/)

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