六条御息所と葵の上の車争い
桐壷帝が譲位して、春宮が即位し朱雀帝となった。若宮は春宮となり、大将となった源氏が後見人となる。
六条御息所の娘(秋好(あきこのむ))も斎宮(さいぐう・天皇の即位毎に伊勢神宮に遣わされた未婚の内親王)に決定した。源氏の通いも絶えてしまった今、若い貴公子と浮名を流したと世間に噂される恥ずかしさもあり、御息所は斎宮とともに伊勢に下ろうかと考えていた。
噂は源氏から思いをかけられていた桃園式部卿宮(ももぞのしきぶきょうのみや)の姫君朝顔(あさがお)にも伝わり、朝顔はこのような辛い目に遭うのはまっぴらと源氏と会うことはせず、手紙のやり取りだけの関係を続ける。
そんな折、葵の上が妊娠する。気分が優れない葵の上だったが、周囲の勧めもあって葵祭りの見物に牛車で出かけた。通りは見物の牛車で立て込んでいて、車を止める場所がない。葵の上の従者たちは他の車を押しのけて止めようとするが、そこにあったのは六条御息所の乗った牛車だった。
双方の従者が乱闘となり、御息所の牛車は破損。祭りに登場する源氏の姿を見ておきたいと身を潜めてお忍びで見物に来たのにもかかわらず、市井に醜態を晒す結果となり御息所は心乱れる。
日が変わって、源氏は紫の上を伴って祭りの見物に牛車で出かける。やはり立て込んでいたが、源典侍が色めいた手紙を寄越しつつ場所を譲ってくれた。源氏を思う他の女性たちは源氏の牛車に同乗している女性が誰なのかと煩悶する。
六条御息所の生霊
辱めを受けた六条御息所はますます思い悩む。車争いの話を聞いた源氏は見舞いに行くが、お互いの距離は縮まらない。
一方、葵の上は物の怪に憑かれ大層苦しんでいた。加持祈祷をさせるが好転しない。並々ならぬ執念の霊の仕業とされ、世間では御息所の生霊ではないかと噂が立ち、それを耳にした御息所は苦悶する。
しかしふと魂が抜け出て彷徨い、葵の上の髪を引っ張ったり叩いたりして苦しめる我が身がいるという自覚が御息所にはどことなくあったのだった。
葵の上が産気づき、より苦しみだす。そのとき源氏は物の怪の正体をはっきりと見てしまう。それは御息所であった。
無事に出産がすみ、夕霧(ゆうぎり)が誕生した。源氏は甲斐甲斐しく葵の上の世話をするが、留守にしたときに葵の上の容体が急変しあっさりと亡くなってしまう。生前は距離のある夫婦だったが、出産を機に睦まじくしていこうと思っていた矢先ゆえに源氏の失望は大きかった。左大臣家も悲しみの淵から抜け出せない。
源氏が寄越した手紙から御息所は全てを察し、伊勢への下向を決心する。
源氏と紫の上の結婚
今後は他人となる左大臣家との別れを経て、源氏は久々に二条院に戻った。紫の上は成長し、すっかり大人びて見える。
ある夜、源氏は紫の上と結ばれる。周囲の女房などは結婚を喜ぶが、紫の上はあさましいことだと思い、源氏を許せなくなってしまった。そんな不機嫌な紫の上を源氏はいじらしく可愛いと思う。
婚姻したからには裳着(もぎ・成人式)も盛大にせねばと準備を始め、実親である兵部卿宮にも知らせようと考えるのだった。
そのころ朧月夜は源氏を思い続けていた。右大臣も朧月夜を源氏に嫁入りさせてもいいと考えるようになる。弘徽殿女御は当然おもしろくないので、朧月夜を入内させようと話を進めた。
年が明けた。左大臣邸に出向くと、夕霧がすくすくと育っている。顔立ちはやはり春宮によく似ていた。