明石の君を迎えるために
源氏が造営させていた二条院の東の院が落成して、西の棟に花散里が引っ越してきた。さらに東の棟には明石の君を迎えようと源氏は心積もりをしている。
明石の里には何度も手紙を送って上洛を促すが、明石の君は自分のような身分の低い女が高貴な女人達の間に立ち混じって生きて行くのは無理な話だと考えてなかなか色よい返事もできない。かといって片田舎で明石の姫君ともども埋もれてしまっては、と心悩む日々を過ごしていた。
明石の君の思いをよそに、明石入道は着々と準備を進めていた。大堰川(おおいがわ・京都の嵐山を流れる)の近くにある縁者の無人の屋敷を改築してそこに明石の君と姫君を移せば、都にも近くなる上に、ちょうど源氏が御堂を造営している嵯峨(さが・京都市右京区)のすぐそばなので源氏の庇護も受けやすいだろうと図ったのである。
明石入道からその話を聞いた源氏は喜び、さっそく大堰川の屋敷へ出向いては改築について指示を出し、明石の里へも召使を遣るのだった。
明石の君の上洛
明石の君と姫君、そして明石の君の母である明石尼君(あかしのあまぎみ)は大堰川の屋敷へ向かうが、明石入道は今更世俗に交じるわけにいかないと明石の里に残ることとなった。妻と別れ、娘と別れ、孫娘とも別れねばならぬ哀しさに袖を濡らしながら勤行に励む入道。娘の立身を思う宿願成就のためだと判っていても別れは辛いものである。
入道を残して明石の里を出立し、大堰川の屋敷に移ったはいいが、肝心の源氏は姿を見せない。近くまで来ているのに会えないことで明石の君は却って物思いに悩まされる。
源氏もなんとか都合を付けて訪ねたいが、変な噂が立って紫の上の耳に入ってはいけないと、自ら紫の上に明石の君が上洛したこと、嵯峨の御堂の飾りつけにことつけて3日ほど二条院を留守にすることを伝えた。紫の上の機嫌は当然悪くなった。
源氏はお忍びで大堰川の屋敷へ向かい、3年ぶりに明石の君と対面する。姫君も可愛らしく成長し、ますます手元に置いて育てたいと思うものの、すぐに東の院に移るつもりのない明石の君から姫君を取り上げて二条院で育てるというのは、彼女に非情な仕打ちになる。それでも正妻ではない腹の子として育つよりも、身分の高い紫の上を養母として育てられたほうが将来を考えれば姫君のためになるのだと源氏は考えた。
二条院へ戻る日には源氏の居所を聞きつけた公卿たちが集まってきてしまい、しばしの別れを明石の君と惜しむこともなかなかできない。公卿たちに囲まれてはまっすぐ帰ることもできず、その夜は宴会となってしまった。
ようやく二条院に戻った源氏はしばし休息したのち、紫の上の機嫌をとる。そして夕刻に明石の君に手紙を送り、職務を勤めて帰ってきてみれば、明石の君から返信が届いていた。源氏は手紙を紫の上に渡し、捨てておくように言うが、紫の上は意地を張って手紙を見ようともしない。その姿がおかしくて源氏はにっこりほほ笑んだ。そして紫の上の傍に寄って、明石の姫君を自分の手で育ててみないかと尋ねたところ、子供がいない紫の上は源氏の意外な提案に喜び、大切に育てたいと考えるのだった。