大君の拒絶
八の宮の一周忌が近づいた。世間慣れしない姉妹に立ち替わり、薫が法要の準備を取り仕切る。薫は今後の身の振り方について大君を説くものの、大君は薫との結婚など考えられない。宇治の山でひとり亡き父を偲んで暮らすつもりであるが、まだ若い中の君だけは人並みに縁組させたいものだと返答する。
これでは埒が明かぬと、その夜、薫は簾と屏風越しに大君と語らっていた折に、遅い時間ゆえ付き人たちが寝室に下がってしまった隙をみて、屏風を押し開けて御簾の内側に入る。驚き逃げようとする大君の裾を捕らえて、思いのたけをかき口説く薫。気を許したせいで浅はかなことになってしまったと嘆く大君の涙もあって、薫はそれ以上無理強いはせず、寄り添うだけで夜が明けてしまった。
朝になって別室へ移った大君は、中の君の隣で横になる。薫の移り香に気付いた中の君は、事情を察した。
一周忌が終わり、薫は宇治へ向かうも大君は対面しようともしない。大君は薫の相手にはやはり中の君が相応しいと考え、中の君にそれとなく将来の縁組のことを話す。しかし曖昧な話し方なのに加え、姉妹揃ってこの山里で生きて行くと誓ったこともあり、中の君は承服しかねる様子だ。
にべもない大君の態度に正攻法では効果がないと踏んだ薫は、夜、弁の君の手引きで大君と中の君が休む寝所にそっと忍びこむ。
ところが異変に気付いた大君は、するりと寝所を抜け出してしまった。薫は不格好にも何も知らずに起きた中の君と対座する羽目になり、人違いでしたと退出するわけにもいかず、ただ話をするだけで夜を明かした。
中の君は大君が話していた縁組とはこのことだったのかと悟り、情けない仕打ちに心を痛める。薫もまた大君にここまで断固拒絶された恥ずかしさも加わって、弁の君に恨み節をこぼして宇治から立ち去った。
匂宮と中の君の結婚
とはいえ大君への気持ちに諦めがつくわけではなく、和歌を送り、自問自答しては煩悶する薫。ここはやはり匂宮と中の君を引き合わせて夫婦にしてしまえば、大君も諦めて素直に自分を受け入れてくれるだろうと考えるようになる。
宇治までの夜歩きが明石中宮に知れるとマズイため、薫と匂宮はごくごくお忍びで都を脱出した。宇治に到着しても匂宮を隠しておき、薫だけで邸内に入る。薫は弁の君に対し「大君に話したいことがあるので、取り次いで欲しい。そのあとで合図をするので、出て来て中の君のところへ案内してほしい」と申し出た。
大君は薫が中の君を受け入れてくれたのだと早合点し、面談を受け入れるが、薫は大君を諦めるどころか彼女の袖を掴んでかき口説くではないか。おまけに隠れていた匂宮までもが薫のふりで合図を出して弁の君を呼び、まんまと中の君の寝所に潜り込んだのである。
薫の企てに騙されたと嘆き悲しむ大君であったが、薫も大君を無理に我が物にしようとはせず、その夜もただ語りのみで明けてしまった。
朝、退出する匂宮を見た女房たちは、事の成り行きを今一つ飲みこめない。中の君もこれは大君が仕組んだことかと思いこみ、大君もまたあからさまな説明をするわけにいかず、ただ匂宮から届いた手紙には中の君に強いて返事をさせた。
その夜も匂宮は宇治へ向かった。こうなった以上は彼を中の君の夫として迎えねばなるまいと大君は心を決める。匂宮は中の君の素晴らしさに心震え、行く末を共にと彼女に誓った。
結婚したら三日連続で妻のもとに通うのがしきたりである。しかし毎夜の浮かれ歩きを明石中宮に咎められて、匂宮はなかなか外出の機会を窺えない。それでも薫の助け船のおかげで、匂宮の宇治行きは成功した。中の君も安堵し互いに心を通わせるが、今後匂宮が宇治に来る機会が少なくなると聞かされ、早くも心潰れる気持ちになる。
9月。薫が匂宮を宇治に連れ出した。宇治では二人を喜んで迎えるが、大君はやはり薫と添い遂げるわけにはいかないと障子越しに対話をする。
10月。薫は紅葉狩りを口実に再度匂宮を宇治に連れ出すが、少人数で向かうはずが結構な大所帯となり、挙句に明石中宮の命で公卿も加わってしまった。とてもではないが隙を見て姫君の山荘を訪ねるなど、できやしない。山荘では今か今かと匂宮の到着を待ち、川向こうから聞こえる管弦の宴の音に心騒ぐが、結局匂宮が山荘に現れることはなかった。
大君も中の君も落胆する。
大君の死
親の後ろ盾のない身ゆえにこのような扱いを受け軽んじられるのだと大君は悟り、ますます一生を独身で貫く決意を固める。しかし心痛から食欲がなくなり体調を崩して寝込む日が続いた。
かたや匂宮も外出を禁じられ、挙句に夕霧の六の君との縁談が本人の意思と関係なく決定される。明石中宮は「気になる人が余所にいるのなら、引き取って後宮にすればよい」と釘を刺し、連続する厄介な展開に仲を取り持った薫は頭を抱えた。
大君が臥せっていると聞いた薫は、宇治へ見舞いに行く。御簾越しに話をするが大君の身体は弱っており、養生のためにいずれ都へ引き取ろうと決め、加持祈祷を申しつけて退出した。
しかし匂宮の縁談の噂が大君の耳に入り、大君はショックを受ける。病は回復せず、久方ぶりに薫が宇治を訪ねてみれば、あるかなきかの間際であった。薫は公務を投げうって宇治に滞在し、必死で看病するが、命の火は消えてしまった。
茫然自失となった薫は参内もせず宇治に引き籠る。あのカタブツの薫がそれほどまでに執心した女性なのだから、よほどの女人なのであろうとの噂が都では流れた。
12月の雪の夜、匂宮が馬で宇治に駆け付ける。これまで来れなかった詫びを入れ、中の君の機嫌をなんとかとろうとするが、中の君もそう簡単には許す様子はない。
薫も都へ戻り、匂宮は中の君を二条院に迎えようと決めた。