カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

内大臣と対面する玉鬘
しかしなぜだか弾まぬ心

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行幸

  •  みゆき  玉鬘十帖
  •  源氏:36~37歳、紫の上:28~29歳、
    玉鬘:22~23歳、夕霧:15~16歳、
    冷泉帝:18~19歳、髭黒:31~32歳

 大原野行幸

  12月。大原野(京都市西京区)へ行幸(ぎょうこう・みゆき・天皇のお出かけ)があった。
  世間は皆、行列を見ようと沿道に駆けつけて押すな押すなの騒ぎである。そして玉鬘もやはり行列見物に来ていた。
  冷泉帝が通ると、その美貌に釘付けになる玉鬘。実の父・内大臣も通り過ぎたが、帝の尊顔の美しさに気圧されてしまう。帝はどことなく源氏に似ているようだが、さらに厳かな雰囲気を足したようだ…などと感じられるだけに、どこそこの貴人やら若い殿上人が通っても帝とは較べる余地もない。
  玉鬘に思いを寄せる髭黒の右大将の姿もあったが、黒々とした髭姿ゆえ全く見向きもしない。帝を拝したあとではそれも仕方ないことであろうか。

  翌日、源氏は玉鬘に「帝を拝して、宮仕えをしてみたくなったのではないか?」と手紙を送る。玉鬘は考えを見透かされたような気になった。

紅葉

  源氏は玉鬘の裳着(もぎ・成人式)の準備に取り掛かっていた。その折に内大臣に全てを打ち明けてしまおうと心づもりをし、儀式の腰紐を結ぶ役を内大臣にお願いするが、大宮の病弱を理由に断られてしまう。夕霧も看病で大宮に付きっきりであるし、仮に大宮が亡くなるようなことになれば、玉鬘のことを知らずに世を去るのは余りに忍びないと考えた源氏は、これを機会にと大宮邸に足を運んだ。

  大宮は臥せりながらも源氏の見舞いを喜ぶ。源氏は昔語りをしながら、さもついでのように内大臣にお願いしたいことがあると申し出た。大宮は「きっと夕霧と雲居の雁の一件だろう」と早合点するも、源氏は当たり障りなく玉鬘の現状を話す。

  話を聞いた大宮は早速内大臣邸に使いを遣り、源氏が話したいことがあるのでと伝えると、やはり内大臣もまた夕霧と雲居の雁の一件のことだろうと勘繰りつつ、支度を整えて急行した。

 父との再会

  内大臣が大宮邸に到着する。久々の対面の二人は、酒も入ったせいもあり昔話に花が咲いた。今でこそ政敵とまではいかずともお互いに争う立場ではあるものの、思い起こせばいつも行動を共にした良き友であり、好敵手であったのだと記憶が蘇り、懐かしさに浸る二人。
  そこで源氏は玉鬘の話を切りだした。
  まさかの話に驚く内大臣だったが、探し求めていた自分の愛娘の発見を素直に喜び、裳着で腰紐を結ぶ役も当然引き受けた。

  とはいえ、夕霧と雲居の雁のことはついぞ語られず、わずかにわだかまりの残る夜となったようだ。
  行方知れずだった娘が見つかったと上機嫌な内大臣だったが、あの源氏が娘をただ引き取っただけで済むはずがない、さては娘に手を出したか…と勘繰るものの、今更宮仕えに出すのも弘徽殿女御の手前、よろしくない。源氏のそばに置いておく方が良いのかもしれぬ…などと考えを巡らせていた。

雪の紅葉

  早速源氏は玉鬘に事の次第を話す。ずっと願っていた実の父との再会、ようやく叶う日が来るのかとただただ嬉しがるのも無理はない。
  源氏は同様に夕霧にも玉鬘が姉でないことを告げた。台風の折に垣間見た源氏と玉鬘のただならぬ風情は、こういうことだったのかと合点がいった夕霧。それならば自分も玉鬘に言い寄っても良かったのだと夢想しながら、いやいやそんな人の道に外れたことをしてはならないと打ち消すのも真面目な夕霧らしい。

  裳着の日。大宮や秋好中宮などからさまざまな贈り物が届いていた。二条院の者は差し出がましい真似はしまいと控えていたが、末摘花だけは律義にも仰々しい和歌を添えて送り届けてきている。玉鬘宛ての贈り物にも拘らず、久しく通いがない源氏への恨み節の和歌(下の和歌を参照)に源氏も苦笑するしかなく、冗談めいた返歌(下の和歌を参照)を書く。

  式が始まり、玉鬘は内大臣と対面した。実の子でもない玉鬘のためにこれほど立派な裳着をするとはと、内大臣は感嘆しつつもいぶかしむ。
  かねてから玉鬘に好意を寄せていた蛍兵部卿宮は重ねて所望するが、源氏ははぐらかしてしまった。

 近江の君の憤怒

  世間は口さがないもので、玉鬘の一件は近江の君の耳にも入っていた。
  思ったことは言わずにおれない性格ゆえ、弘徽殿女御や柏木の前でずけずけと言いたいことを言う。
「またも内大臣様に女子の存在が発覚して、源氏の太政大臣からも大切にされているなんて、なんて幸せな女。しかも身分の低い女が母だそうで、自分と同じ身の上なのに、どうしてこんなに扱いが違うのでしょう? 宮仕えは我こそがしたいと思うからこそ、下女の下働きみたいなことまでやったのに!
頼みもしないのにこんな場所に連れてきた柏木のお兄様が悪い! こうなれば頼りになるのは女御様だけ!」

樹氷

  こんな調子で弘徽殿女御に宮仕えの推薦をしつこく願い出るものだから、女御も困り果ててしまった。
  それを聞いた内大臣は「なぜ宮仕えのこと、早く申し出なかったのだ?」と尋ねると、近江の君は「女御様が口添えしてくださると当てにしていたが、玉鬘に先を越されてしまった」といけしゃあしゃあと返す。
内大臣は「それは遠慮が過ぎたというもの。真っ先に言ってくれれば対処したのに。今からでも遅くないので、冷泉帝に手紙を書いてごらんなさい。長歌でも詠めば帝もきっと心打たれるだろう」と嘘八百を並べるが、近江の君も「父上が文章を書いて、それにちょいと付け足す感じで…」などと更に上を行く返事をするものだから、周囲は笑いを堪えるのに必死。
  落ち込んだ時は近江の君と会うと気が紛れる、だなんて内大臣は言っているのだとか。

系図
わが身こそうらみられけれ唐衣 君が袂に馴れずと思へば
唐衣また唐衣唐衣 かへずがへすも唐衣なる
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