カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

頭の中将と夕顔の遺児・玉鬘
大人になった彼女は源氏と出会う

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玉蔓

  •  たまかずら  玉鬘十帖
  •  源氏:35歳、紫の上:27歳、
    玉鬘:21歳

 ながれゆく夕顔の娘

  源氏は今となっても、若き日に亡くした恋人・夕顔のことを忘れかねていた。内大臣(頭の中将)と夕顔の幼い娘の行方を捜すことすらできず、年月だけが経ってゆく。
  夕顔の死後、夕顔の侍女である右近だけが、そのまま源氏と紫の上の女房として残っていた。右近もまた夕顔の死を未だもって返す返す残念なものだと思っていた。

  その忘れ形見の夕顔の娘、玉鬘(たまかずら)は、乳母の夫が大宰少弐(だざいのしょうに・九州大宰府の役人)に転勤が決まったため、幼い身ながらともに都を離れ筑紫(福岡県)へ下った。
  任期を終えた大宰少弐だったが、あろうことか都へ戻る前に病に倒れてしまう。家族の者に玉鬘の行く末を頼み、くれぐれも筑紫で埋もれることなく都へ戻って良縁を得るよう言い残して死んでしまった。

コスモス

  玉鬘はすくすく育ち、夕顔に勝る美人となった。噂を聞きつけて多くの男性が求婚に訪れる。けれども大宰少弐の遺言を守り、身体に障害があってとてもではないが嫁げない身なのだと嘘をついてかわしていた。
  乳母たちはなんとかして玉鬘を都へ連れて行き、実父である内大臣に引き合わせたいと考えるも、乳母の娘や息子たちは筑紫で結婚してすっかり安住してしまっていたのだった。

 都へ逃げる玉鬘

  肥後(熊本県)の役人で大夫監(たゆうのげん)という男がいた。美女を集めて暮らすのが野望だという武士で、やはり玉鬘の噂を聞いて求婚に現れる。玉鬘がどんな身体であろうが大切にするのでと押してくる上に、土地の分限者ゆえに断ると仕返しされるのが怖いのもあって、乳母の息子たちは大夫監の味方をしてしまう。

  ただ乳母の長男の豊後の介(ぶんごのすけ)だけは、覚悟を決めて乳母たちとともに玉鬘を逃がそうと決心した。もし大夫監に見つかればどのような仕打ちを受けるかもしれず、また妻子を残して行くのも辛く感じたが、亡き父の遺言を遵守することが第一と考え、実行に移すことにする。

睡蓮

  大夫監が祝言のため4月20日に迎えに来ると通知してきた。それまでに逃げのびねばと、乳母と玉鬘たちは舟で出立し、都へ向かった。大夫監の追手がやって来るのではとの心配も杞憂に終わり、ほどなく一行は都へ到着する。

  しかし入洛したとはいえ、豊後の介や乳母には内大臣へ奏上するツテもなく、どうしたものかと考えあぐねた。こうなれば神頼みだと、石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう・京都府八幡市の神社)と長谷寺(はせでら・奈良県桜井市の寺院)に足を延ばすことに。

 徒歩で進む一行は長谷寺の手前の椿市(つばいち・奈良県桜井市)で宿をとり休息した。
 偶然にも同じ宿に右近が宿泊していた。右近もまた長谷寺参りのための宿泊で、なにやら聞いた声、見た顔の人がいると声をかけてみれば、まさかの再会の感激を味わうことになる。

長谷寺

  翌日は長谷寺に参り、右近は大願成就を感謝した。
  乳母は右近に対し、玉鬘の存在を内大臣に伝えてほしいと述べるが、右近は過去の事情を説明し、源氏が玉鬘を探している旨を伝えた。

 玉鬘、六条院へ

  右近は六条院に戻った。源氏と語らう紫の上の姿を見ると、玉鬘も美しいがやはり紫の上には敵わないようにも感じられる。右近は源氏に玉鬘を見つけたことを報告。源氏は驚き喜んで早速六条院に引き取ろうと言いだした。子だくさんな内大臣に教えたところで他の子たちの権勢に気圧されてしまうだろう。それよりは、子が少ない源氏の秘蔵の娘として世に紹介した方が良いと考えたのである。

  玉鬘のもとには源氏から数多くの贈り物が届く。実の親でもない見知らぬ人から施しを受ける恥ずかしさを感じるものの、周囲の声にほだされて、玉鬘は六条院の丑寅の町へ移った。花散里が親代わりを務めることになった。源氏は紫の上にも事の仔細を明かす。

  夜、源氏は玉鬘と初めて対面。源氏はすっかり親気取りで対峙した。世間には源氏の娘として流布されたため、夕霧も玉鬘のことを姉だと思いこんでいる。事情を知る者たちはいたたまれない気持ちになるものの、豊後の介は六条院の家司(けいし・貴族の家に勤める役人)に取り立てられ、玉鬘の周りの人物の運勢は好転していった。

花

  年末。源氏は新年の衣装を用意した。紫の上はそれぞれの女人に似合う衣装を源氏に見立てさせる。見立てから女人の器量を推測するつもりなのかと紫の上をからかいながら、源氏は各女人にぴったりな衣装を選んでいった。

  まず紫の上のために流行色の葡萄染め(えびぞめ・灰赤紫色)の紅梅模様を選んだ。表は白で裏は赤の桜襲(さくらがさね)は明石の姫君へ。薄藍色に紅を添えたものは花散里に。玉鬘へは紅に山吹の花をあしらった意匠を選択した。
  人の器量は衣装とは必ずしも一致しないものだと源氏は言いつつ、柳と唐草模様の衣装を末摘花のために選んでみては本人にもそれくらい艶やかさが欲しいものだと苦笑。
  そして梅と花鳥柄で白と紫のものを明石の君に選んだのを見た紫の上は、やはり明石の君は高貴な紫色を纏うだけの貴婦人なのだろうと思いを巡らせる。
  また、出家して尼になり、二条院に住まう空蝉にも青鈍(あおにび・濃い鼠色)の織物を贈った。

系図
恋ひわたる身はそれなれど玉鬘 いかなる筋を尋ね来つらむ
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