紅梅一家
亡くなった前の太政大臣の次男で、同じく亡き人である柏木の弟の弁少将は、今や地方行政の監視を執り行う按察使(あぜち)大納言となっていた。妻との間には大君(おおいぎみ)・中の君(なかのきみ)の二人の女子があったが、妻が死んでしまったため再婚している。紅梅大納言と世間では呼ばれていた。
再婚相手は亡き黒髭の娘・真木柱である。真木柱もまた蛍兵部卿宮と結婚して娘・宮の御方(みやのおんかた)を儲けたものの、蛍兵部卿宮とは死別していたのだ。その後、紅梅と結婚した真木柱は若君を生んで今に至る。
娘は次々と成人した。春宮には既に夕霧の長女が入内しており、寵愛を競う面倒さも頭をよぎるものの、やはり宮仕えに出してこその張り合いある人生だと思い直し、紅梅は大君を春宮に入内させる。
続いて紅梅は、中の君をぜひ匂宮に嫁がせたいと考えていた。匂宮は紅梅の若君を可愛がっており、弟はともかく特に姉と懇意になりたいものだと言った言葉を若君はそのまま紅梅に伝える。これは脈ありだと、紅梅は喜ぶのであった。
宮の御方も今は紅梅の屋敷の東の棟に住んでいる。彼女は人一倍内気で恥ずかしがり屋だった。義父である紅梅に顔を見せたことすらなく、実母である真木柱と面と向かって顔を合わせることもほとんどない。
それでも声や気配から察するに大君や中の君以上の女人やもしれぬと、紅梅は宮の御方のもとを訪ねては顔を見る好機を得ようと話し掛けたりしていた。
匂宮と紅梅の思惑違い
宮の御方のもとを訪ねた紅梅は琴の演奏を勧めるが、御方は手を出そうともしない。そこへ御所へ向かうところだった若君がやって来たので笛を吹かせ、御方にも合奏を促す。紅梅は庭の梅の枝をひとつ折り、若君に持たせた。
若君は御所へ急ぎ、匂宮に梅の枝を届ける。匂宮は目を付けていた大君が春宮に嫁いだことをやや悔しく感じていたので、同じ血筋の宮の御方を狙っていた。若君は匂宮に優しく接されて嬉しくなり、春宮のところへも行かねばならぬはずであったが、結局その晩は匂宮と寝入ってしまう。
匂宮の返信に対して、紅梅は重ねて中の君の縁談を匂わせる返事を書いた。匂宮も心動かされる気はすれども、やはり気になるのは宮の御方である。肝心の宮の御方は人並みの結婚など考えられぬという風情で、匂宮からの手紙に返事もしない。
真木柱は紅梅が中の君を推している上に、匂宮が宇治八の宮(うじはちのみや)の娘にも気があるらしいとの噂を耳にしているので、宮の御方の婿として匂宮は望ましくもあり、相応しくなくもあり、と心配しきりのようだ。