カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

玉鬘と髭黒の突如の結婚
翻弄される周りの人々

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真木柱

  •  まきばしら  玉鬘十帖
  •  源氏:37~38歳、紫の上:29~30歳、
    玉鬘:23~24歳、夕霧:16~17歳、
    冷泉帝:19~20歳、髭黒:32~33歳

 黒髭の突進

  晴天の霹靂の事態となった。玉鬘の女房が手引きして髭黒を玉鬘の寝所に招き入れてしまったのだ。真面目で堅物だと思っていた髭黒の突飛な行動に玉鬘はなすすべもなく、ふたりは結ばれてしまった。

  報せを聞いた源氏は当然面白くなく残念に思うが、済んだことは仕方ないと嫁入りの儀礼の指図をする。蛍兵部卿宮や冷泉帝も落胆しきりで、帝は「後宮と言わずとも、せめて気楽な女官としてでも出仕してくれないだろうか…」と未練たっぷりの様子である。
  却って、玉鬘の宮仕えで発生するかもしれなかった弘徽殿女御との寵愛争いを避けたいと考えていた内大臣は、この縁組に満足げであった。

  玉鬘と源氏の仲を勘繰る噂はこれで消し飛び、源氏は紫の上に「浮気をだいぶ疑ってたようだが」と冗談めかして話す一方、玉鬘に対しては添い寝だけで手を出さなかった安全な愚かな男だったことよと率直に伝えた。

さざんか

  髭黒は玉鬘の宮仕えを認めるつもりはなかったが、それを口実に自邸に引き取ってしまおうと思い立ち、出仕を許可。同時に散らかりきった自邸を修繕させ、玉鬘を迎えるべく綺麗にした。
  新妻の到来に浮かれる黒髭をよそに、妻は嘆くばかりである。髭黒の妻は式部卿宮の娘という由緒ある家柄なれど、ときどき物の怪がとりついて狂気じみた振る舞いをする持病があり、そんなこんなで夫婦仲はやや疎遠になっていた。話を聞いた式部卿宮は黒髭の仕打ちに怒り、娘を実家に戻すと言いだす。

  式部卿宮の反応に髭黒は厄介な持病を抱える妻を支えてきたことも評価してもらえないのかとボヤき、妻は妻で嘆き節を吐きながらも玉鬘のもとへ出掛ける黒髭を送りだす準備を甲斐甲斐しくしていたそのとき…
  物の怪が急にとりついたのだろう、気弱な妻は豹変して乱心し、灰をこれでもかと黒髭にぶちまけたのである。
  全身灰だらけで着物に焦げ穴まで作ってしまった黒髭は、妻の気をなんとか沈めさせ加持祈祷をさせて物の怪を払うしかなく、もううんざり。こんな狂人の妻となどこれ以上一緒には居られない、一刻も早く玉鬘を迎え入れたいと考えた。

 真木柱の別れ

  数日たっても妻の物の怪は消えず、乱心が続いていた。こんな状態では埒があかぬと式部卿宮は娘と孫たちを引き取りにやって来る。
  こうなった以上はやむをえまいと覚悟を決めた黒髭の妻は子供たちとともに家を去る決心をするが、黒髭に可愛がられていた娘(真木柱(まきばしら))は、せめて父に別れの挨拶だけでもと動こうとしない。けれども黒髭が帰宅する気配はなく、諦めた真木柱は普段寄り掛かっていたお気に入りの柱の割れ目に和歌(下の和歌を参照)を詠んだ紙を差し込んで泣く泣く家を離れた。

南天

  事態を知った髭黒は急いで自邸に戻るものの、時既に遅し。柱に残された真木柱の和歌に涙ぐみ、すぐさま式部卿宮邸に足を運んで妻に会わせてくれと懇願するが聞き入れられるはずもない。髭黒は対面できた息子たちだけを連れて自邸に帰る。

  式部卿宮の冷たい仕打ちを逆手にとって、それ以降黒髭は妻に連絡も寄越さなくなった。ますます呆れかえる式部卿宮に加え、宮の妻に至っては須磨に流浪した源氏の恨みを今こうやって玉鬘を使って仕返しされていると逆恨みする始末である。それもこれも紫の上が陰で糸を引いているのではと、言われも無い噂まで流れ、紫の上は心を痛めた。

 玉鬘の出仕

  こんな騒ぎが続き、望んでこうなったわけではない玉鬘の気分は落ち込むばかり。沈む気分を少しでも転換できればと、黒髭は玉鬘を宮仕えに出した。それでもこのまま御所に居付かれるようなことになっては困ると、即日で退出を促す。源氏にその旨を伝えても、たまの参内なのだから急かさずにとの返事で髭黒は落ち着かない。
  玉鬘のもとに冷泉帝が足を運ぶ。帝は玉鬘に黒髭の妻になってしまった恨み事を言うも、玉鬘は恥ずかしさで返事もできない。かたや黒髭は帝が玉鬘のところに向かったと聞いて居ても立ってもいられず、内大臣に泣きつき、ようやく退出の許しを得た。

  あまりに早い退出に帝は残念がるが、黒髭はさらに先手を打ち、六条院に玉鬘を連れ帰ると思わせておいてそのまま自邸に玉鬘を運ぶ。何の儀式もせず連れ帰るのは非常識ゆえに、源氏は不満を感じるが手出しのしようもない。

  3月。源氏は玉鬘に手紙を送った。親子の間柄でありそれを越えたかのような不思議な関係ゆえに、玉鬘もまた源氏を懐かしむ気持ちに満たされていたが、髭黒には実の親子でもないのにこう頻繁にやり取りするとは可笑しな話だと一笑に付され、玉鬘の気分を害する。

梅

  実家に戻った髭黒の妻の気が狂わんばかりの様子はその後も変わらぬようだ。とはいえ髭黒との一切の縁を切ったわけではなく、暮らし向きに関しては髭黒の援助が続いていた。それでも真木柱は髭黒に会うことを許されず、髭黒邸に連れ戻された息子たちがたまに来ては、父や玉鬘との生活の様子を話してくれるので、男に生まれれば父に会えたのにと身の上を残念がる。

  11月。ふたりに男児が授かり、黒髭はますます玉鬘を大切にする。内大臣も孫の誕生に大喜び。
  かたや宮仕えを希望していた近江の君は、妙に色気づいてそわそわしていた。そのうち何かしでかすんじゃないかと、弘徽殿女御は気が気ではない。人前に出るなと制する内大臣の小言も上の空で、ある夜などは公卿たちが大勢やってきて管弦をしていた際に現れては、夕霧に向かって「妻が決まってないなら私がなりましょう」とぬけぬけと言い放ったほどである。しかし「気のない人のところには行きません」と返されて、あっさり玉砕したそうで…

系図
今はとて宿離れぬとも馴れ来つる 真木の柱はわれを忘るな
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