女三宮の憂鬱
夏、源氏は女三宮のために仏像の開眼供養を挙行した。仏堂を建立しようとの発案で、これ以上ない出来の仏道の品々をさまざま取りそろえる。飾り付けを済まし、源氏は女三宮のいる西の廂を覗いてみれば、5~60人もの女房が所狭しとひしめきあっていた。
お香もこれでもかとばかりにキツく焚いてあったため、源氏は口うるさくあれこれ指示を出す。尼姿の女三宮を見れば、やはり出家させたのはあまりに惜しいと悔やんだ。
今になって女三宮を惜しむ源氏は、細やかに彼女の面倒を見るようになった。朱雀院が譲った旧邸の三条の宮を修繕し、たいそう立派に仕立て、身の周りの物から宝物まで次々に新調して運び込む。
秋になった。庭に鈴虫や松虫を放つ。夕暮れ時になると源氏はここへ来て虫の音を愛でながら、女三宮をそれとなく口説いている。女三宮は困惑するやら迷惑に感じるやら…
虫の声のあわれさに誘われ、源氏は琴を奏でた。世を捨てた女三宮だが、さすがに琴の音色には心惹かれるのであった。
冷泉院での宴
十五夜なので月見の催し目当てに蛍兵部卿宮が来た。夕霧たちも一緒で、琴の音色を頼りに尋ねてきたらしい。御所での月見は中止になったとのことで、他にも公卿たちが次々に集まり、月見と虫の声を聞く宴となる。
こんな夜の宴にこそ柏木がいてくれたら一層華が咲くだろうにと、源氏は彼を懐かしんだ。そこへ冷泉院からの使者が来た。退位して重い身分から解き放たれ、悠々自適に暮らしているというのに、うっかり挨拶にも出向かなかった非礼を感じ、一同は冷泉院の邸へ移動する。院も思わぬ来訪に喜んで、源氏たちと共に夜を明かした。
翌日、源氏はそのまま秋好中宮の住まう棟へ向かう。周囲の貴人たちが次々と出家する中、秋好中宮もまた出家を望み、母・六条御息所の霊を慰めたいと考えていた。源氏はその気持ちは尊重するが、今すぐの出家ではなく、ゆっくり準備すれば良いと説く。
源氏も秋好中宮も、なまじ重い身分ゆえに現世にほだしが多く、出家を望んだところで早々には叶いそうもない。せめて供養だけでもと、秋好中宮は母のために追悼し、源氏も法要を持つことにした。