朝顔とのやりとり
朝顔の父、桃園式部卿宮が逝去したことで、朝顔は住まいを実家に移した。源氏はかねてから手紙をやり取りしていた朝顔に重ねて手紙を送り、住まいを訪ねることにする。
屋敷には朝顔のほかに女五の宮(おんなごのみや)が住んでおり、彼女の見舞いにかこつけた訪問だった。女五の宮は大納言(頭の中将)の母である大宮の妹にあたるが、大宮よりも老けて見え、孫もおらず兄も逝去したことから心寂しくあったため、源氏の来訪を喜んだ。
朝顔との対面は御簾越しで且つ女房を介してのよそよそしいものだった。長年手紙をやり取りしてきたのに、未だ気を許してもらえない恨みをこぼす源氏。二条院に戻って再度手紙を出すと、それでもきちんと返事が返ってくるのが愛おしい。
筆跡は見事なもので、過去に思いを寄せた女院や六条御息所が今は亡き人であることからも、高貴で才能ある女性はこの人を除いていないと思われる。若いころのような振る舞いは今更みっともないと判ってはいながらも、源氏は朝顔へしきりに手紙を送った。
女五の宮はこれを知って二人の縁組を喜び、その噂は紫の上の耳にまで入って来る。まさかそんなと思い直すも、やはり源氏の素振りを見ているとなにやら隠し事をしているようで、紫の上は動揺した。
今まで源氏の妻として栄華を誇って来たものの、身分の高い朝顔が源氏の正室となれば、これまでのようにはいかなくなる。源氏は優しい気質なので捨てられることはあるまいが、それでも愛情が薄れて行くのは否定できないだろうと、紫の上の心は入り乱れるのであった。
朝顔の決断
ある雪の日、源氏は女五の宮の見舞いに行くと紫の上に告げるも、紫の上は返事もしない。ただならぬ気配を感じた源氏は紫の上をなだめつつも、既に約束してあることゆえ朝顔の屋敷へ出立した。
屋敷で女五の宮と話を交わして朝顔のもとへ移ろうとした矢先、老女から声をかけられる。源典侍だった。彼女は尼として女五の宮のもとで仏道修行していたのだ。まだ生きていたのかと源氏は驚き、さらにまだ色気づいているのにはほとほと呆れてしまう。
朝顔との対面。源氏は真面目な口調で望みが叶わないならその旨をはっきり言ってほしいと伝える。朝顔は源氏に恥をかかせないためにも、明確にきっぱりと断ることはしない。しかし源氏が関わりを持ってきた数多くの女人が経験したであろう源氏の心変わりを、自分も味わう立場になりたくないとの気持ちを伝えた。
二条院では紫の上が塞ぎこんでむくれている。源氏は紫の上の機嫌をとった。朝顔のことで気に病んでいるなら杞憂だ、朝顔は色恋に縁遠い人で、たまにこちらから戯れに恋文めいたものを出すと当たり障りのない返信をくれるだけでしかない仲なのだ、それ以上進みようがない関係なのだと、言い聞かせた。
雪の積もった夕暮れ。庭を眺めながら源氏は紫の上に語りかける。女院とのこと、朧月夜のこと、明石の君のこと、花散里のこと…
その夜、源氏は女院の夢を見る。他言しないと約束したのに喋ってしまい浮名を流すことになったことを恨むという内容に、源氏ははっと目が覚めた。ふたりのあるまじき秘密ゆえ、尼になって逝去してのちもまだ往生できないのだろうかと、源氏は悲しく思い念仏を唱えるのだった。