雨夜の品定め
成長した源氏は中将になり、その美貌と才能は宮中の評判を呼んでいた。そんな彼にひけをとらぬ秀才、左大臣の息子である頭の中将(とうのちゅうじょう)と源氏は良き好敵手であり友人であった。
ある雨の夜、御所に詰めていた二人は女性の話に花を咲かせる。欠点も何もかも隠されてしまっている上流階級の箱入り娘よりも、気質がありのままに見える中流階級の娘のほうが良いとの持論を頭の中将が語り、源氏も興味を示す。さらに左馬の頭(さまのかみ)と藤式部の丞(とうしきぶのじょう)も加わり、女性論を繰り広げていく。
頭の中将の忘れられない恋
左馬の頭の恋愛談を受け、頭の中将もまた「愚か者の話をしましょう」と過去の身の上話を始めた。
――親もないひとりきりの女性と密かに逢うようになり恋に落ちたものの、毎夜通うわけでもなくたまに行く程度で、夜な夜な浮かれ歩きをしていた。しかし女はそんな扱いに不平を洩らすわけでもなく、甲斐甲斐しく振る舞っていた。それを良いことになおざりにしていたら、いつしか女は姿を消してしまっていたのだ。
二人の間には娘までも生まれていたのだったが、今となっては行方知れずで探しようもない――
ほかにさまざま話をするうち、夜は白んだ。
空蝉との一夜
源氏は久々に左大臣家へ足を向けるが、葵の上は変わらずつんと取り澄ました様子。気楽な雰囲気ではないため、ついつい周囲の女房(にょうぼう・世話係)と冗談を交わしていると、その夜は方角的にここに泊まるのはよろしくない日だと判明する。
やむをえず方違え(かたたがえ)に紀伊の守(きのかみ)の邸宅を選び、向かうことになる。偶然にも紀伊の守の父伊予の介(いよのすけ)宅の女性たちも方違えに来ていた。
源氏が通された部屋のそばで女性の話し声がする。このあたりの身分の女性がいわゆる昨夜話していた中流階級女性のことなのかと興味を示した源氏は、聞き耳を立てた。
そして紀伊の守とともに、伊予の介の後妻空蝉(うつせみ)の弟であるかわいらしい小君(こぎみ)の身の上の話などをしているうち、みな寝静まってしまった。
眠れない源氏はそっと起き出して先ほどまで女性の声のしていた方へ向かう。うつらうつらしていた空蝉は驚くものの、源氏を受け入れた。
空蝉の煩悶
しかしながら空蝉は人妻である身。おおっぴらに逢うわけにもいかない。そこで源氏は小君を招き入れると、空蝉への思いを上手く言いつくろい、小君に手紙の受け渡しを命じたのである。
一夜の過ちを悔いつつも、高揚する気持ちを隠しきれない空蝉であったが、それでもここで流されてはいけないと自制し、手紙を持ってきた小君を手ぶらで帰らせた。
何度手紙を送っても返事を寄越さないので、源氏は方違えの日を待って再度紀伊の守邸へ向かう。小君には空蝉のもとへ案内するよう言い含めたが、空蝉は煩悶しながらも源氏と会うことを頑なに固辞するため、小君は弱ってしまった。