カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

大君ゆかりの女性の
登場に薫は動揺する

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宿木

  •  やどりぎ  宇治十帖
  •  薫:24~26歳、匂宮:25~27歳、
    中の君:24~26歳、浮舟:19~21歳、
    夕霧:50~52歳

 匂宮と六の君の結婚

  今上帝の后には明石中宮のほかに、亡くなった左大臣の娘・藤壷女御(ふじつぼのにょうご・冷泉院の母であった女院とは別人)がいた。子はひとり、女二宮(夕霧の妻の女二宮とは別人)だけであったが、女二宮が裳着を迎える前に女御は死んでしまう。
  後ろ盾のない女二宮の行く末を案じた今上帝は、薫ならば夫として申し分ないと判断。碁の勝負の賭けにかこつけて、女二宮を降嫁させる旨をあからさまではなく仄めかした。
  薫は恭しく受諾する真似をするものの、心ここにあらず。未だ大君を忘れられないのである。

  夕霧はこの話を耳にして「六の君をいっそ薫にとの企みも崩れてしまった今、やはり匂宮に嫁がせるしかない」と明石中宮に根回しを繰り返した。たび重なる説得に根負けした匂宮は、これに応じる。
  年が改まり、薫の婚約も匂宮の婚礼の準備も本人の意とは無関係に進んでいく。匂宮は心配をかけまいと中の君には何も伝えず、それでも婚礼の噂は耳に入るもので、中の君はやはりこうなる運命であったかと落胆。いっそ宇治の山里でひとり朽ちて生きていたかったと悔やむ。
  そうこうするうち中の君は妊娠する。けれども匂宮にそれを伝えることもなく、匂宮もまた彼女の変化に気付かなかった。

首飾り

  この成り行きには薫も心を痛めていた。匂宮と中の君の仲立ちをしたのは、大君と添い遂げるためとはいえ、浅はかな行為であったと悔やむ。大君の遺志どおりに自分が中の君と結婚しておれば…

  匂宮の婚礼の日が来た。匂宮は二条院から離れがたい気持ちを振り切って、夕霧の邸宅へ向かう。つまらぬ女子であったなら、体よくあしらおうと高を括っていた匂宮であったが、六の君は匂宮が思っていた以上に美しく、素晴らしい娘だった。
  中の君を慕う気持ちは変わらねど、六の君には匂宮を惹きつけて放さないまた別の魅力が存分にあったのである。

 迷走する薫

  身重の身体に加えて不安が募る中の君には頼りにする人とてなく、亡き八の宮の供養を引き合いに、お礼を直々に述べたいとの口実で薫に手紙を書く。
  早速翌日の夕刻に訪問する薫。いつもは御簾越しの対面だが、今回は御簾の中に招き入れて几帳(きちょう・間仕切り)越しで話す。
  匂宮への恨み事は言わずとも宇治へ行きたいとこぼす中の君に、薫は自身を抑えきれなくなり、ぐっと彼女の袖を掴んだ。忍ばせていた想いが噴出し、必死に中の君をかき口説く薫。それでも妊娠を示す帯を見た薫は我に返り、これ以上の振舞いに及ぶわけにはいかないと退出した。

  久しぶりに二条院に戻った匂宮は、微かな残り香に薫の来訪を察知。もしや間違いでもあったかと中の君を問い質すも、健気な彼女を責めきれない。やはり薫は油断ならないと感じた匂宮は、しばらく二条院から離れようとしなかった。
  薫もまた、勢いとはいえ人の女房を口説いてしまった愚かさを悔い、同時に匂宮が中の君を見捨てることがないことを察して安堵する。

真珠

  それでも耐えがたい想いに耐えかねて、薫は中の君を再度訪ねてしまう。尽きぬ心の内を吐露する薫に対して、中の君はふと思い出したかのように、ある女性が尋ねて来たことを話し始めた。その女性は亡き八の宮の縁者で、不思議なくらいに大君に似ていたと言うのだ。
  気持ちを自身から逸らせようという中の君の策かと恨めしくも感じた薫だったが、同時にその女性を気になり始める。

 大君ゆかりの女性、浮舟

  9月。薫は大君の一周忌の法要の打ち合わせのために宇治へ向かった。山荘を取り壊して山寺の近くに御堂を建てようとの提案をし、阿闍梨も賛同する。その夜、薫は山荘で弁の君と語らった際に、中の君が言っていた女性について尋ねてみた。
  弁の君が言うには、八の宮は妻が他界した頃、中将の君(ちゅうじょうのきみ)という女房とひととき恋仲になったらしい。

  彼女は子を儲けたものの、出家願望の強かった八の宮は疎ましく思い、一切会わなくなった。悲嘆の彼女は地方官僚の妻となり任国へ下って行き、便りは寄越して来ていたものの一度も会うことはなく、二十年ぶりに上洛したのだという話である。
  逸る気持ちを抑えきれない薫。八の宮の墓参りをしたいと言っていたそうなので、薫は仲介を弁の君に依頼する。

  年が明けて中の君は臨月を迎える。同時に女二宮の裳着は目前となり、それは薫との結婚の日が近づいたということになるのだが、当の薫は中の君のお産の心配ばかりしていた。

真珠

  2月。薫は権大納言に昇進。次の日、中の君は無事に若君を出産する。
  その月の20日ごろ女二宮の裳着があり、薫と婚姻する。源氏ですら晩年になってから、夕霧に至っては揉めに揉めた形で皇女を娶ったのに関わらず、薫はまだ若いのになんとも強い幸運の持ち主だと夕霧は語った。

  4月。薫は女二宮を御所から三条の宮へ移す。女二宮は落ち着いていて欠点のない女性だったが、薫の心を支配していたのは未だ大君であった。

  その月の20日過ぎに宇治の御堂工事を見に行った薫。弁の君を訪ねてみると、山荘に見慣れない女車があった。中将の君とその娘・浮舟(うきふね)が、長谷寺参りの帰りにちょうど立ち寄っていたらしい。
  物陰から覗いてみれば、田舎じみた付き人たちに交じって一人だけ品のある若い女性がいる。
  その姿はまさに大君そのもので、薫は思わず涙を流した。夕暮れになり、薫は弁の君に取り次ぎを依頼。その夜、薫と浮舟は結ばれた。

系図
かほ鳥の声も聞きしにかよふやと しげみを分けて今日ぞ尋ぬる
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