カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

栄華の絶頂のはずが…
暗雲立ち込める源氏の周囲

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若菜上

  •  わかなじょう
  •  源氏:39~41歳、紫の上:31~33歳、
    女三宮:13~15歳、明石の君:30~32歳、
    明石女御:11~13歳、夕霧:18~20歳、
    柏木:23~25歳

 源氏の選択

  六条院への行幸のあと、元来病弱だった朱雀院の体調が輪を掛けて悪化する。かねてからの念願だった出家のための準備に取り掛かるが、遺される女三宮(おんなさんのみや)の行く末だけが気がかりであった。
  女三宮は、亡き女院の異母妹にあたる藤壷女御(ふじつぼのにょうご)と朱雀院の間の娘である。藤壷女御が先立ったあとは、朱雀院の庇護だけで生きてきただけに、ほかに後ろ盾がない。

  出家するらしいとの噂を聞いた公卿たちが、朱雀院の見舞いに次々と参上する。夕霧も顔を見せたので、心弱い朱雀院は夕霧にそれとなく女三宮のことを託したく告げるが、生真面目な夕霧がようやく結ばれた雲居の雁を差し置いて、新たに女三宮と縁組みなどするはずもない。

  源氏が幼少の紫の上を貴婦人に育て上げたように、年端もゆかぬ女三宮を守り育てきる器のある男性はいないものか。蛍兵部卿宮は風流人だが、なよなよしすぎている。柏木が女三宮を娶りたがっているとの話も聞こえてくるが、皇女を降嫁させるには彼はまだまだ身分が低く、釣り合わない…
  思案を重ねた結果、朱雀院はやはり源氏をおいて他に女三宮を安心して託せる人材はいないとの結論を出した。

菜の花

  源氏も話を聞き及んでおり、朱雀院と大して年齢が変わらない身なのに、朱雀院亡きあとにどれだけ長生きして女三宮を守ることができようか、しかもこの歳になって紫の上を本妻の座から追いやるような真似はしたくないと考える。とはいえ、女三宮は恋焦がれた女院のゆかりの人なので、生来の好き心もあって、源氏はどうも気になるのであった。

  年の暮れに女三宮の裳着を執り行った3日後、朱雀院は剃髪して仏門に入った。源氏は見舞いに伺うが、やはり女三宮のことを切り出され、あろうことか成り行きで承諾してしまう。

  なんということをしてしまったのか。
  翌日、源氏は紫の上に女三宮降嫁承諾を明かしたが、紫の上の反応は淡々としていた。普段ちょっとしたことでもはっきり態度に示す性分なだけに意外ではあったが、源氏に見せた反応とは裏腹に紫の上の失意は非常に大きかった。
  けれども、騒いで取り止めにできる事柄でもないし、自分に恨みを持つ式部卿宮の妻なぞはさぞ嘲笑するだろうが、せめて我が身はうわべだけでも平静を保とうと紫の上は決心する。

 女三宮降嫁

  年が明けた。玉鬘が髭黒の連れ子たちと新たに生まれた男の子を連れて、六条院に源氏の四十歳の祝いに訪れた。

  2月、女三宮が六条院に降嫁した。これからは慣れぬ一人寝をせねばならない悲しみを堪え、紫の上は源氏を女三宮の部屋へ送りだす。迷惑なことになったものだと周囲の女房たちは騒ぎたてるが、滅多なことを言うものではないと紫の上は戒めた。

若葉

  翌朝、源氏は夜が明けるや否や、紫の上のもとに戻る。幼く頼りない女三宮を目の当たりにして、ますます紫の上の素晴らしさが身に沁みたのであろう。紫の上の機嫌を取ろうとする源氏。
  婚礼後は3晩続けて新妻のもとに通うしきたりなのに、源氏は紫の上のもとからなかなか出立しようとしない。まるで源氏を引き留めていると周囲に誤解されかねないので、逆に紫の上の神経は擦り減るばかりであった。

  女三宮から返歌が届く。紫の上が見ずとも見えてしまったその筆跡は、いかにも子供のものだった。筆跡だけではない。身体つきや、受け答え、話す内容、趣味、どれもこれもまだまだ子供のままで、趣味人たる朱雀院がどうして女三宮をこんな風に育ててしまったのかと源氏は不思議に感じた。

 明石女御の出産

  朧月夜もまた出家願望を抱えていたが、朱雀院を追うように出家するのも外聞が宜しくないので、ゆっくり準備を進めている。源氏は過去の朧月夜との逢瀬を思い出し、どうにも止まらず、今は一人住まいの気安さとなった彼女を訪問する。
  馬鹿正直にも、そのことを紫の上に漏らしてしまう源氏。新たに嫁を娶っただけでなく、昔の恋人までも復縁するようでは、ますます自分の影など薄まるだけだと紫の上は涙を流す。

  入内した明石の姫君こと明石女御(あかしのにょうご)が懐妊し、六条院に里帰りしていたので、紫の上は女御に会ったついでを利用して女三宮と対面した。
  10月、紫の上は源氏の四十歳の祝いの法要を行った。12月には秋好中宮が、祝いの祈願の催しを実施。冷泉帝も源氏のために盛大に祝いの席を設けたい考えだったが、派手な儀式は源氏が予め丁重に断っていたため、急遽夕霧を右大将の職に抜擢。夕霧に命じて祝いの宴を開いた。

赤ん坊

  2月、産み月が近づいた明石女御は、祖母の明石尼君から自身の出生と紫の上に預けられるようになったいきさつを聞かされる。今の自分の幸福は、周囲の人たちの誠意と努力の賜物だったのだと悟るのだった。
  3月、女御は若君を無事に産んだ。紫の上は赤子の世話に顔がほころぶ。明石の君も実の母面して出しゃばったりせず、きめ細かく立ち振る舞っているので、明石の君を褒めない人はいない。

  播磨の明石の里にも吉報は届き、明石入道は昔夢見た宿願は全て叶ったと、明石の君を源氏に嫁がせた理由を手紙に記して京に届けさせる。そして自身は後世のため里を捨て、山に入ってしまった。明石の里での別れが明石入道との今生の別れになってしまった明石尼君と明石の君は、若君誕生の嬉しさと引き換えに大きな悲しみに襲われるのだった。

 柏木の恋心

  女三宮のことを見聞きするたびに、夕霧は何もかも揃った完璧な女人とはなかなかいないものだと改めて感じていた。そう言う意味では台風の日に垣間見た紫の上は比類なき女人であり、未だに目に焼き付いて離れることはない。
  かたや女三宮を娶りたいと希望していた柏木の落胆は計り知れない。女三宮の乳母の子にあたる小侍従(こじじゅう)という女房から女三宮の様子を聞きだし、源氏の愛情の深さは紫の上には及ばず、女三宮は飾りもの扱いらしいとの噂などを耳にしてはひとり煩悶していた。

猫

  六条院で退屈しのぎに若者たちが蹴鞠(けまり・ボールを蹴り上げ続けて回数を競うスポーツ)に興じていたときのこと。女三宮が居る部屋の御簾(みす・スダレ)に、猫を繋いでいた紐が引っ掛かってまくれ上がり、室内が丸見えになってしまった。

  女三宮の姿も露わになってしまい、これはまずいと気付いた夕霧が咳払い。その機転のおかげか、女三宮はスッと奥に立ち去ったものの、事故とはいえ顔を開陳してしまうようでは完璧からは程遠い隙だらけの女性であると改めて夕霧は感じた。

  かたや恋焦がれていた相手の顔をはっきりと見てしまった柏木は、源氏と恋路を張り合うなどとは恐れ多いが、それでも自分の気持ちだけでも女三宮に知ってもらおうと、小侍従を介して手紙を送った。
  手紙を読んだ女三宮は、男性に顔を見られたことで源氏からきつく叱られるとおののき、返事を書くどころではない。代わりに小侍従から「高嶺の花に恋しても無駄」と素っ気ない返事が柏木に届いた。

系図
身に近く秋や来ぬらむ 見るままに青葉の山もうつろひにけり
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