カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

浮舟の所在を掴んだ匂宮
二人の男の愛情に挟まれた浮舟は…

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浮舟

  •  うきふね  宇治十帖
  •  薫:27歳、匂宮:28歳、
    中の君:27歳、浮舟:22歳

 匂宮、暴走する

  匂宮はいつぞに出くわした浮舟のことが忘れられず、中の君が隠したのではないかと詮索する。本当のことをペラペラ喋るわけにもいかず、かといって腹違いの姉妹で夫の愛情を争うようになればもっと辛い思いをせねばならない。中の君は黙って耐え忍ぶしかなかった。
  一方、薫は浮舟を宇治に上手く匿えた安心感から、のんびり構えていた。それでもいずれ都に迎えねばと新居の建設を急がせる。

  年が明けてある日、小さな女の子が中の君のところにパタパタと走り寄って手紙を渡す。匂宮が誰からの手紙なのかと問うと、女房宛てで宇治からのモノだと言う。
  何やら怪しいと感づいた匂宮は手紙を取り上げて読んでみれば、婉曲ではあるがあの浮舟のことを記しているようにも見えた。

  早速匂宮は薫に縁のある大内記(だいないき・詔勅や宣命などの記述を職掌とする官僚)を呼び出し、薫が宇治の屋敷に女人を住まわせているという情報を聞き出す。
  その女人が以前我が家で遭遇したあの姫君なのか、なぜ中の君が彼女と親しげにしているのか、自分の預かり知らぬところで薫と中の君に何かあるのではないか――匂宮の疑念は嫉妬に変化して行った。

炎

  さらに匂宮は大内記に宇治へ連れて行くよう言い含め、薫と鉢合わせしない日を選んで密かに出立した。夜半に宇治に到着して、早速屋敷の陰から覗き見してみれば、そこにいたのは確かにあの姫君だ。
  皆が灯りを消して就寝したのを確認した匂宮は、薫の声色を真似て屋敷の中に入る。道中でトラブルに遭って酷い身なりをしているから灯りは点けないでくれとの嘘に、女房はまんまと騙されてしまった。
  こうして匂宮は浮舟の寝所にやすやすと忍びこんだのである。浮舟が男の正体に気付くも、時既に遅し――

  翌朝、薫と思いこんで寝所に通した男が実は匂宮だと知った女房はびっくり仰天。しかしこうなった以上は仕方あるまいと、屋敷の他の女房たちに知られないよう、物忌だということにして、厳重に閉め切って匿うことにした。
  浮舟は薫ほどに高貴な男性はいないものだと思っていたが、匂宮の見目麗しさと優しい愛情に触れて、心揺れる。その日は終日ふたりで過ごしたが、夜になって都から帰京の催促があった。後ろ髪引かれる思いで匂宮は宇治を去る。

 板挟みの浮舟

  二条院に戻っても中の君を見ると浮舟を思い出し心が痛む匂宮。中の君に対しても、薫への嫉妬から恨みがましいことを自然と口にしてしまう。体調不良を理由に出仕せずにいると、薫が見舞にやって来た。彼の奥ゆかしい態度がますます匂宮を不安にさせた。浮舟は彼と自分とを較べてどう思っているのだろうかと。

  日は流れる。匂宮が身分柄、都を出ることも叶わず悶々と過ごしていたころ、薫は久しぶりに宇治に向かう。浮舟が知らぬ間に匂宮の手に堕ちていたことなど想像もできない薫は、しばらく見ない間に彼女も大人になったものだと勘違いな感想を抱く。
  浮舟は匂宮の優しさと強さ、男らしさに惹かれながらも、実直誠実で落ち着いた雅さを持つ薫を振り棄てることができない。そもそも先に薫が夫になったわけであり、拒絶すべきは匂宮のはずなのだ。しかし浮舟にはそれができなかった。

  2月。匂宮は雪の降る中、宇治へ向かった。女房はあくまでも薫が訪ねて来たかのように装って、そっと彼を引き入れる。人目に付くといけないからと、匂宮は川の対岸に予め家を用意しており、夜の闇にまぎれて移動することにした。川を渡る舟に乗る際に匂宮は浮舟を抱きかかえる。
  対岸の家で二日間水入らずで過ごした二人。帰りも匂宮は彼女を抱きかかえて舟に乗せる。
「薫はこんなことまでしてはくれまい。私の心の深さがわかりましたか」と尋ねれば、浮舟もこくりと頷いた。

川

  こうして薫と匂宮の板挟みになった浮舟は、どちらに添えばいいのか悩む日が続くことになる。
  もし薫に匂宮とのことがバレてしまったら、どれほど軽蔑されるだろうか。考えただけでも恐ろしい。かといって匂宮と添い遂げようにも、浮気性で名高い彼にどこまで愛され続けてもらえるかの保証もない。中の君に対しても、恩を仇で返す形になってしまう。もはや八方塞になってしまった。

  薫は浮舟を都に迎える日を、4月10日と決めた。匂宮も都の目立たぬ場所に隠れ家を準備し、浮舟を匿う旨を彼女に伝える。どこへ隠れようともきっと探し出して迎えに行くとの手紙に浮舟は心潰れる思いをし、どうすれば良いのか判らなくなる。
  母・中将の君に相談しようにも、実家のお産で手一杯にしている上に、薫が都に引き取るとの話に喜んでいる状況ではとてもではないが、現状を告白できるはずもなかった。
  もう、死ぬしかない――

 追い詰められた三人

  浮舟のもとには、薫からも匂宮からも手紙が届く。薫の手紙を届けた男が、匂宮からの手紙を届ける男を偶然発見した。大内記の家でも見かけた男がなぜここにいるのかと不思議に感じた彼は、部下に男を尾行するよう命じた。男が匂宮の屋敷に入って行ったとの報告を受け、そのままを薫に伝える。

――匂宮が浮舟と通じている? ありえなくはない。むしろ大いにありえる。あの女好きで手が早い彼ならさもありなん。宇治の田舎に匿って安心していた自分が馬鹿だったのだ。薫は悔やむと同時に、中の君との恋路をサポートし続けた恩がこのような形で返されて口惜しく感じた。
  宇治に手紙を送る薫。薫の和歌(下の和歌参照)に動揺し、「この手紙は宛先違いです」と送り返すも、とうとうバレてしまったと恐怖に襲われる浮舟。

濁流

  しばらくして今度は手紙ではなく、武士がやって来た。薫の命令で屋敷の警護をすると言う。怪しい人間がいたらひっ捕らえるつもりだ。
  匂宮からも必ず連れ出すから待っていろとの手紙が届く。浮舟はもうどうすればいいのか、何の判断もできなくなってしまっていた。返事も書けずにいたため、さては薫が説き伏せたかと思いこんだ匂宮は居ても立っても要られず宇治へ急行した。

  しかし武士たちの警護は厳しく、匂宮は屋敷を目前にして踵を返さざるを得ず、心引き裂かれる思いで都へ戻った。
  浮舟もまた悲しみに暮れる。轟々と音を立てて流れる宇治川。もはや身を投げて消えてしまうしかないのだ。

系図
波こゆる頃とも知らず末の松 まつらむとのみ思ひけるかな
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