カンタンに読める! 3分で読む源氏物語

浮舟を諦めきれない薫は
どんな手に出たのか?

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山路の露【前編】

  •  やまじのつゆ  
  •  薫:28歳、匂宮:29歳、
    浮舟:23歳

 悩み尽きぬふたり

  小野の里で起きた薫と浮舟のあれこれを、詳しく見ていた人がいた。その人が旅先で急死してしまったので、遺品を整理していたら、ふたりのなりゆきを細かく記した紙が見つかった。以下がその内容である。

  あれから薫は何度も小君を小野の里に遣ったものの、結果は毎度同じだった。小君が手ぶらで戻って来るたびに薫の心は乱れ、居ても立ってもいられず、悶々と過ごす日々が続いた。

  宮中の物忌が明ける日、参内する前に薫は女二宮のもとへ出向く。彼女の姿を見てもなお、脳裏に浮かぶのは浮舟のことばかりである。匂宮との重大な一件も、今となってはもはや記憶から消え落ちたように思える薫。
  中の君を訪ねて思い出話に興じることもないではないが、互いの身分に重々しさが加わったせいで、気軽に語り合うというわけにもいかない。亡き大君に似た女性がどこかにいないだろうかと、あちこちを嗅ぎ回ってみたりもするけれど、やはり浮舟以上の女性などどこにも居やしないのだった。

露

  かたや小野の里の浮舟は、勤行三昧に過ごしていた。その熱心さは横川の僧都をも感心させるほどだ。
  しかし浮舟には、ひとつ大きな気がかりがあった。実母の中将の君のことである。死んだはずの娘が尼となって生きていたと知ったら、どれほど母は動揺するだろうか。それでもこうなってしまった以上、死に切れずに生きている証として母に一目だけでも会いたいものだ。
  それにしても小君が中将の君に仔細を報告していないなんてことが、一体あるだろうか…
  薫も浮舟も心晴れることなく、悩む日が続いていた。

 薫、動く

  薫が体調を崩し、数日寝込んだあとのこと。小君が訪ねてきた。薫は小君に至急小野の里へ向かい、必ず浮舟から返事を取りつけるよう厳命する。
  夕刻になって小野の里に到着した小君は、妹尼に浮舟との対面を申し出た。浮舟は渋って出てこないが、小君も粘る。
  自身の頑なな態度のことが巡り巡って中将の君の耳に入ったら母がどう思うだろうかと、ここでようやく浮舟は思い当たった。それとなく意中を伝えておくのはやぶさかではないと考えを改め、小君と対面することにする。

  小君は薫からの手紙を浮舟に手渡した。浮舟の美しさは以前のままだった。それだけに尼削ぎの髪が涙を誘う。
  中将の君はどうしているのかと浮舟が尋ねると、彼女は浮舟の失踪後は気も狂わんばかりになって衰弱していたが、薫の庇護で命は取り留めたと答えた。さらに浮舟が見つかったことは他言無用との命を薫から受けていたので、中将の君はまだ何も知らないのだと小君は明かした。
  浮舟は薫に所在を知られたことを悔やみきれず、やはり人違いだったと薫に報告せよと頼むが、小君はそれは無理な話だと考えた。浮舟は中将の君宛ての手紙を小君に渡した。

  すっかり夜が更けた。小君は帰路を急いだ。三条の宮に着いたのは夜中だったが、折よく近所で火事が発生したらしい。しめたとばかりに門を叩き、門番たちに火事を知らせる小君。

火災

  幸いここまで延焼することなく鎮火し、また静けさが戻った朝方、小君は薫と対面し、事の次第を報告する。
  中将の君宛ての手紙を読んだ薫は、その切々なる思いに胸が塞がる気がした。そして今夜、お忍びで小野の里へ行くつもりであることを小君に明かす。
  突然押し掛けたところで、ふたりの恋が蘇ることはないかもしれないが、せめて思い出語りだけでもできればと、薫と小君は日暮れとともに小野の里への道を急いだ。

 再会

  小野の里は人影もなく、薫はそっと庭に忍び込んで様子を探る。読経をしている女性がいた。間違いない、浮舟だ。読経が終わり、月を眺める浮舟が思わず詠んだ和歌(下の和歌を参照)に薫は我慢できなくなり、返歌(下の和歌を参照)を詠んで浮舟の袖を掴んだ。
  こんな形で再び顔を合わせるとはと狼狽し、取り乱す浮舟。薫は切々と自身の気持ちを吐露し、浮舟は胸を打たれながらも、悲しさで涙が止まらない。

月夜

  薫が匂宮との一件をつい愚痴ってしまうも、浮舟は上手に言い紛らわす。昔のままの彼女に加えて重々しさも添えられ、彼女はますます捨て難い女人になっていた。
  とはいえ出家した女性に無体なことはできぬと、御簾越しで今の思いのたけを真摯に語るだけの薫。その真面目な姿勢に浮舟も心打たれたはずだろう。

  次第に夜明けが近づく。薫は浮舟を小野の里からもう少し都に近い場所へ移したいと伝え、今後は手紙の返事もじらさぬよう依頼して、庵を出立した。

系図
里わかぬ雲居の月の影のみや 見し世の秋に変はらざるらん
古里の月は涙にかきくれて その世ながらの影は見ざりき
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