蛍に照らされる玉鬘
源氏から思いを明かされた玉鬘は、憂鬱な日が続いていた。身元引受人に言い寄られる自らのつらい身の上も、全ては母・夕顔が早くに死んだせいかと悲しく口惜しく感じる。
源氏も素直に気持ちを伝えたものの、これ以上深入りしてはいけないと自らを戒めつつ、暇を見つけては玉鬘のもとへ通い、ついつい口説き文句を並べ立てては玉鬘を困らせてしまう、という状況だった。
そんななか、蛍兵部卿宮は変わらず熱心に玉鬘に恋文を送ってきていた。源氏は一計を案じ、蛍兵部卿宮に色よい返事を書かせる。喜び勇んで玉鬘の屋敷にやってきた蛍兵部卿宮は、源氏が隠れているとも知らず、几帳を隔てた玉鬘に向かって対座した。
ゆかしい振る舞いや芳香も加味されて、玉鬘をなんとも上品でこの上ない女性であるように感じられた蛍兵部卿宮。そこへ好機を窺っていた源氏は、隙を見て袋に入れて隠していたホタルを解き放つ。暗闇に一斉に飛び交うホタルが光を放ち、その一瞬、蛍兵部卿宮は玉鬘の横顔を見てしまい、その美しさにますます夢中になってしまう。しかし、送った和歌の返歌はつれないものであった。
恋人のような振る舞いをするかと思えば、他の男の気を誘わせる行動に出る源氏に対し、玉鬘は困惑するばかりで、悩みは尽きそうにない。
夕霧の悩み
5月5日、端午の節句になった。花散里と夕霧が住む六条院の丑寅の町で、弓の技を競う催しが開かれた。普段は静かな丑寅の町も、この日ばかりは大勢の来賓で賑わう。自邸で晴れやかな催しなどついぞ無かった花散里だったが、それを恨みがましく思うはずもなく、この華やかな日を純粋に楽しんでいた。
源氏は久々に花散里と夜を共に過ごしたが、一緒に寝るような若い年齢でもないので、と花散里は寝所を別々に設ける。多くを望まず、なにごとも控えめでおっとりとしている花散里の変わらぬ気質に源氏は癒される。
長梅雨の空、六条院では女君と女房たちが絵物語をひろげて物語評論をしていた。源氏もまた寸評を差し挟んだりしつつ、玉鬘に言い寄る、そんな日が続いた。
紫の上も同じく明石の姫君に絵物語を見せては語らっていた。姫君が昼寝した折に源氏が現れて、あまりに恋愛描写が多い絵物語や継母の意地悪な仕打ちを描いたものは姫君の教育によろしくないと、万事につけ心を配り指示をするのだが、その説教を玉鬘が聞いたら一体どう思うだろうか。
過去のような過ちがあってはいけないと、源氏は夕霧を紫の上に近づけないようにしているが、明石の姫君は夕霧とは兄妹なのだからと、夕霧と姫君を遠ざけることはしなかった。夕霧は心やすく姫君の御簾の中まで入って行き、雛遊びなどの相手を務める。
そんな幼い姫君を見ていると、ついつい雲居の雁と昔仲良く遊んだことを思い出し、心を沈ませることが多い夕霧。
ほかの女人に戯れに言葉をかけたりすることはあっても深入りせず、素晴らしい女人との出会いも捨て置いて、やはりあの雲居の雁をおいて他に愛する人はいないのだと恋心を燻らせていた。
内大臣に頼みこめば交際を許してはもらえるだろうが、ここはやはり立身出世して向こうが折れてくれるのを待つしかないと心に決めた夕霧は、雲居の雁とは手紙だけのわずかなやり取りで我慢するしかなかったのである。
一方、内大臣の息子の柏木などは、夕霧に対して玉鬘との仲を取り持ってくれないかと言ってくるが、夕霧はさらりとかわしてしまい、まるで若き日の源氏と内大臣の関係のよう。
源氏とは逆に、子だくさんの内大臣。しかし男子ばかりで、数少ない娘・弘徽殿女御を中宮にすることができず、雲居の雁も夕霧の件でケチがついたため、内大臣は常々残念がっていた。せめて離れ離れになってしまった夕顔とその娘がそばにいればと思い、娘を探し出そうと決心する。占い師にも「長年忘れていた娘が、他人の養女になっている」と告げられ、子息たちに娘探しを命じたほどであった。