長かった初恋
夕霧に縁談が持ち上がったとの噂に動揺する内大臣。もし夕霧がその相手と結婚してしまうような事態になれば、雲居の雁には別の相手を探さねばなるまい。さらに夕霧と雲居の雁の破局は、世間の話の種ともなろう。ならばここは自ら折れて、夕霧と雲居の雁の縁を取り持つしかない…
決心を固めた内大臣は、大宮の命日の法事にかこつけて夕霧に縁組の話をすることにした。
当日、内大臣は夕霧に「老い先短い身の私を苛めなさるな」と話しかけたが、折悪く雨が降り出して話も流れてしまった。それでも夕霧にとっては、普段そんなことを言いだしそうにない性格の内大臣が気弱な台詞を述べたので、どういった心の変化なのかと気を揉むのであった。
4月、庭の藤が見事に咲き揃ったのを受けて、内大臣は宴を催すことにした。夕霧のもとにはわざわざ長男の柏木を招待の遣いにやり、「先日はせっかくの機会が流れてしまい名残惜しいので、庭の藤を愛でにお立ち寄りを」との手紙を託した。
「御伴しましょう」とからかう柏木を夕霧は先に帰し、源氏にどうすべきか相談する。せっかくあの内大臣が折れて来たのだから身を着飾って出掛けるがいい、と源氏はとっておきの直衣(のうし・普段着の着物)を見繕ってやる。
やや遅れて参上した夕霧の姿を見て、内大臣は女房たちに夕霧を褒めそやす。宴はたけなわとなり、内大臣は夕霧に酒をしきりに勧め、「あなたは秀才であられるのに、年寄りを見捨てるような真似をなさる」とこぼしつつも、「あなたが心を開くならば私もあなたを頼りにしよう」と古歌を引き合いに雲居の雁を託す旨を伝えた。
夜は更け、夕霧は酔ったていで内大臣邸に泊まることにする。柏木が夕霧を雲居の雁の部屋へ案内した。晴れて夫婦となった夕霧と雲居の雁。長年積もり積もった感情がようやく報われた二人であった。
紫の上と明石の君の対面
葵祭りの日、五節の舞姫だった藤原惟光の娘である藤典侍(とうのないしのすけ)に夕霧は手紙を出した。雲居の雁と結婚したとの話を耳にしていた藤典侍は、やはり気に病んではいたが、今後も夕霧は彼女を捨てることはないであろう。
紫の上は明石の姫君の入内に母として付き添うべきなのだろうが、これを機会に実の母である明石の君にその役目を譲ってしまおうと思い立つ。それは良い決心だと称賛した源氏は、早速明石の君に伝える。明石の君は非常に喜んだ。
入内後、紫の上と明石の君が初めて対面した。明石の姫君をかすがいとして、今までのわだかまりもようやく解ける。明石の君の話す様子を見れば、源氏が彼女に惹かれたのは当然だと紫の上は感じ、明石の君もまた数多き女人の中で紫の上が最も愛されるのは、もっともなことだと思った。
明石の姫君は何の欠点もなく美しく成長しており、春宮も姫君を気にかけているようだ。
源氏の栄華絶頂
来年40歳を迎える源氏のため、朝廷では祝いの準備に着手した。秋には准太上天皇(じゅんだいじょうてんのう・上皇に準じる身分)に任じられ、この世の頂点を極めた源氏。それでも冷泉帝にとっては源氏に譲位したい気持ちを堪えた妥協の処遇だった。
内大臣は太政大臣に昇進し、夕霧は中納言となった。新中納言の堂々たる姿に、太政大臣も彼を婿に迎えて正解だったと満足している。
いつぞや「六位の男が相手では情けないこと」と口悪く乳母に罵られたことも、夕霧にとって今となっては笑い話になった。出世したこともあり今の部屋が手狭になったため、夕霧は昔慣れ親しんだ故・大宮の三条邸を改築してそこに移り住んだ。
10月。六条院に冷泉帝が行幸(ぎょうこう・お出かけ)した。紅葉が見事だとのことで冷泉帝は朱雀院にも声をかけ、天下人が一堂に会することになった。
宴では舞いも披露され、源氏と太政大臣が若かりし頃、ともに青海波(せいがいは)を舞ったことをなども懐かしく思い出すのであった。